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 やはり、将人は違う世界の人だったのだと、火灯美は強く思った。
爆発と同時に、将人は目の前で変身し部屋を飛び出していった。
爆発の衝撃で聴覚は失われ、火灯美の頭の中ではきーんと金属音が響いていた。
床の上には、男が血に染まって倒れている。恐ろしい光景だった。
悲鳴を上げようと思ったが、血の色が目に突き刺さってくるようで、なぜか声が出なかった。どす黒い血が火灯美の声を吸い取ってしまったかのように。
なんで自分はここにいるんだろうと、不思議に思った。
将人と初めて会ったときに、何とも言いようの無い、熱い気持ちになったこと。死にかけた将人を膝に抱き、じっと見つめていたことなど、きれいに意識から消えてしまった。
もうここに居たくなかった。
しかし立ち上がろうにも身体が怯えてしまったのか、脚が動かせない。
ただ自分の膝を見つめ、耳を押さえてじっとしていた。深海に潜む大きな貝になった気分だった。本当に貝になってしまえればいいのにと思った。

 そのままいくらかの時間が過ぎた。数分か数十分か。もしかしたら数時間かもしれない。火灯美は時間の感覚を失っていた。
とにかく、気がついた時には部屋の中は静まり返っていた。
恐る恐る耳を押さえた手を離した。また爆発が起きるかもしれないと思った。そうなったら、悲鳴を上げよう。誰も助けには来ないだろう。でも、悲鳴を上げるんだ。
火灯美はそっと床に立った。裸足のつま先が、カーペットの血を吸い込んだ部分に触れないように注意した。
倒れている男が見えた。将人が男の顔の上にかがみこんでいる。
よく見ると、男の下半身はちぎれて、すこし離れたところに転がっていた。
胃が締めつけられる感覚があり、吐き気がこみ上げてきた。火灯美はトイレに駆け込んだ。
 将人は明を見下ろしていた。
明がゆっくりと目を開けた。
「デク人形ども、やっつけてくれたかい」
「ガイボーグか。少々てこずったが、片付けたよ」
明は自分の体を見た。
「やられちまったなぁ……生えてくるかな? 俺の足」
「ああ。心配するな……俺だって回復したんだ。きっと大丈夫さ」
「寒いンだよ……それに、ものすごく眠たい」
「疲れてるだけさ」
「そうだ……眠っちまう前に言っておかなきゃ……これを言えないまま……目が覚めなかったらシャレに……ならないからな」
明の声が弱々しくなってくる。
「何を言い出すんだ」
「……オマエのことだよ。オマエの名前は風間将人。拳王流っていう拳法を極めていたんだ。だから、クラウンに目を付けられたんだろうな……九ヶ月前に拉致されて……改造、された……」
声が消え、明が目を閉じた。息を吐くと呼吸が止まった。
体を分断され、血液を大量に失っては、ミューティアンといえども命を失うのだ。
明には今まで利用されていたのかもしれない。しかし、将人は友達を失ったような喪失感を味わっていた。
トイレから火灯美が吐く、苦しそうな音が聞こえてきた。
もう火灯美に会うこともないだろう。
彼女の世界と自分の世界は違う。
それだけのことなのだ。

 将人は立ち上がり、出て行った。
クラウンと戦うのだ。その決意を心に刻んでいた。


                           おわり
△先頭